立春を過ぎ、日中は春の陽気のような暖かさとなった2月14日。澄み渡る青空に誘われて、私は名古屋のシンボル、名古屋城へと足を運びました。前回の熱田神宮散策では冬の静寂と歴史の重みに触れましたが、今回は豪華絢爛な「美」の世界と、ひっそりと佇む癒やしの音色を求めての旅です。
名古屋駅から地下鉄に揺られ、わずか数分で到着する名城。都会の喧騒の中に突如として現れる巨大な石垣と堀を眺めると、何度訪れても背筋が伸びるような思いがします。
二之丸庭園に響く、心の浄化。隠れた名所「水琴窟」
今回、私が名古屋城を訪れた最大の目的の一つが、「水琴窟(すいきんくつ)」です。以前、白鳥庭園を訪れた際の目的でもあげましたが、名古屋城にもその素晴らしい音色を楽しめる場所があると知り、真っ先に向かいました。
水琴窟は、日本最大級の広さを誇る「名勝二之丸庭園」の一角、二之丸茶亭の裏手にひっそりと設置されています。備え付けの柄杓で静かに水を流し込むと、地中の甕(かめ)の中で反響した水滴の音が、まるで琴の音色のように、高く澄んだ響きとなって地上に届きます。
周囲の木々が風に揺れる音と、この微かな、けれど確かな金属的な音色。白鳥庭園では残念ながら聞くことが出来ませんでしたが、ここではどこか凛とした、潔い美しさを感じます。日常の雑多な思考が、一滴の水とともに消えていくような感覚。この音色を聴くためだけにここを訪れる価値があると、私は断言します。
空襲の記憶を刻む。「西の丸御蔵城宝館」での歴史対話
本丸御殿へと向かおうとしましたが、さすがは週末の名古屋城、入り口には長い列ができていました。そこで、まずは静かに歴史と向き合うべく、2021年に開館した「西の丸御蔵城宝館(にしのまるおくらじょうほうかん)」へ足を運びました。
ここでは、名古屋城が歩んできた激動の歴史を物語る資料が数多く展示されています。私の目を釘付けにしたのは、かつて正門(旧榎多門)を飾っていた「旧国宝 銅鯱(どうしゃち)」です。1945年の空襲により、名古屋城は天守閣とともに多くの至宝を焼失してしまいました。展示されている銅鯱は、その際の熱で変色し、破損した痛々しい姿を晒しています。

しかし、その傷跡こそが、この城が潜り抜けてきた現実を語る何よりの証拠です。現在の絢爛豪華な復元が、どれほど多くの人々の情熱と、失われたものへの追悼の上に成り立っているのか。黄金の輝きを愛でる前にこの歴史に触れることで、この後の本丸御殿の見え方が、より深いものへと変わります。
近世城郭の最高傑作。本丸御殿の黄金と彫刻に包まれて
いよいよ、この日のメインイベントである「本丸御殿」へと入城します。1615年、徳川家康の命により建てられたこの御殿は、戦災焼失を経て2018年に全面復元が完了しました。

入城に際しては、貴重な文化財を保護するための厳格なルールがあります。壁や障壁画を傷つけないよう、大きな荷物は必ずコインロッカーへ預けなければなりません。身軽になって一歩足を踏み入れると、そこには外の寒さを忘れさせるほどの、圧倒的な黄金の世界が広がっています。
本丸御殿の見どころは尽きませんが、特に注目すべきポイントをいくつか挙げます。
- 玄関・表書院の障壁画:入ってすぐに迎えてくれるのが、狩野派の絵師たちによる「竹林豹虎図」です。獲物を狙う虎の鋭い視線と、黄金の背景。訪れる者を圧倒する威圧感と美しさは、当時の大名の権力を象徴しています。

- 上洛殿(じょうらくでん)の極彩色:三代将軍・家光の宿泊のために増築された、御殿の中で最も格の高い空間です。天井板絵から飾金具に至るまで、細部まで徹底的に装飾されています。
- 芸術的な天井:格天井(ごうてんじょう)と呼ばれる格子状の天井は、部屋の格付けによってその装飾の密度が変わります。見上げすぎて首が痛くなるほど、その精緻な造りに魅了されます。
そして、私が何よりも心を奪われたのが、「彫刻欄間(ちょうこくらんま)」の鮮やかさです。

極彩色で彩られた鳥や花々が、まるで今にも動き出しそうなほどの立体感を持って彫り込まれています。光の当たり方によって表情を変えるその色彩は、当時の工匠たちの執念に近い技術の結晶です。後ろに並ぶ方々の視線がなければ、その場に立ち尽くして、一つひとつの彫刻の物語を読み解いていたい衝動に駆られました。
散策の終わりに:金シャチ横丁への誘い
城門を後にすると、そこには名古屋の「食」が集結する「金シャチ横丁」が広がっています。伝統的な「なごやめし」を楽しめる義直ゾーン(正門エリア)と、新感覚のグルメが並ぶ宗春ゾーン(東門エリア)。美味しそうな香りに後ろ髪を引かれましたが、この日は午後に予定があり、断念せざるを得ませんでした。もし皆様が訪れる際は、ぜひ名古屋城の歴史を堪能した後に、この活気あふれる横丁で旅の余韻を味わっていただきたいです。
散策のアドバイス
名古屋城の開園時間は9:00〜16:30ですが、本丸御殿や西の丸御蔵城宝館への入場は16:00までとなっています。特に本丸御殿は待ち時間が発生することが多いため、時間に余裕を持って訪問することをお勧めします。 また、名古屋城の観覧料は現在500円ですが、2026年10月より1,000円へと改定される予定です。現在の価格でこの芸術を堪能できるうちに、ぜひ足を運んでみてください。
施設・店舗情報
- 名古屋城
- 公式サイト
- 住所:愛知県名古屋市中区本丸1番1号
- 開園時間:9:00〜16:30(本丸御殿入場は16:00まで)
- 金シャチ横丁
- 公式サイト
- 住所:名古屋市中区三の丸1丁目(義直ゾーン)
- 営業時間:各店舗により異なります
今回の散策費用(1名分)
- 交通費(地下鉄 名古屋駅〜名古屋城駅 往復):500円
- 名古屋城 観覧料:500円(※2026年10月より1,000円に改定)
- 合計:1,000円
冬の終わりの名古屋城。黄金の輝きと水琴窟の音色は、忙しない日常で凝り固まった私の心を、優しく解きほぐしてくれました。歴史は、単なる過去の遺物ではなく、今を生きる私たちに「美」という形で語りかけてくれます。あなたも、その声に耳を傾けに、この名城を訪れてみませんか?
世界の霧
名古屋城散策の霧レベルは3となりました。総合レベルは変わらず55となっています。
名古屋市内でも主要駅からほど近い為、移動距離によるレベルがあまり上がりませんね。
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